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黄賓虹について

黄賓虹は1865年に中国浙江省で生まれます。黄家の先祖は安徽省黄山。幼少期は父に画技を学び、同時に絵画と彫刻に優れた才能を発揮します。山水画を描いた際には、その完成度の高さから周囲を驚かせた逸話も。地元にあった古代遺産に触れ、篆刻（印書の作成）学習と収集に興味も示した少年でした。17歳の時には、国学研究家である汪仲伊から儒学の聖書にあたる「経書」の手ほどきも受けています。

1887年に揚州へ出向き、画家である鄭珊学と陳崇光に師事。山水画や花鳥の技法を学んだあと、1894年には揚州から故郷に戻り本格的な絵画制作に従事していきます。1905年に河南省洛陽市で新安中学の国学教師に就任した賓虹。1907年以降は、30年間にわたり上海を拠点にします。最初の20年間は出版社で編集を担当しながら、画家修業も続けていきました。その後、上海や北京、杭州などの美術学校で教員として復職しています。

1934年に上海博物館の理事に任命されたあと、商務印書館の美術部主任も担当。1937年には上海から北平（当時の北京の呼称）に移り、紫禁城の外堀にある故宮博物院の古物鑑定委員に選ばれました。国立曁南大学芸術学部教授や国立北京師範学院講師などを歴任したのも同時期のことです。1948年に抗日戦争が終わり、賓虹は北京から上海に戻ると、85歳ながら杭州国立芸専で教授を務めます。翌年には中央美術学院華東分院の教授も歴任しますが、2年ほどで実質的な指導から退けています。

1950年に文学者・夏承燾と談話した際には、「67歳（1932年）以降、毎朝2時間くらい絵を画く生活を続け、80歳になってもその習慣は変わっていない」と語っていた賓虹。ところが1952年に白内障と診断されると、視力の低下に苦しみます。最終的には失明した状態のなか筆を握り、最晩年となる90歳で中国伝統画学の歴史的変遷を説く七言詩「画学篇」を完成させました。しかし同年、胃癌が悪化し、杭州人民病院で息を引き取ることに。晩年の賓虹は、黄家の先祖が眠る黄山・新安江の山水に魅了されたことから、新安画派の大家として名を馳せました。その一方、四川省都江堰市にある景勝地「青城山」を描いた山水画も多く残しています。現代では、英文訳「Twilight rainbow（トワイライト レインボー/黄昏の虹）」の愛称でも親しまれています。